「施設の事故無くしたい」 息子失った母の思い


 2016年11月に堺市の日中一時支援施設でおきた誤嚥事故で、1歳9ヶ月のダウン症の男児が亡くなりました。母親の美砂子さん(40)は、「全国障がい児者施設の事故ゼロをめざす会」を立ち上げました。国に安全確保のガイドラインの制定などを呼びかけることにしていて、「全国の遺族らとつながり情報交換したい」と話しています。【→詳細は本文】


 

●施設の食事をのどに詰まらせて

 美砂子さんは、2016年11月4日午後6時半ごろ、堺市内の日中一時支援施設から電話を受けました。「けんちゃんが食事をのどにつまらせてしまって…、来てください」。
急いで駆けつけると、息子の顔や手足・全身は土気色で、唇は紫色に。舌を出して白目をむいて、男性職員の膝の上で、仰向けになってぐったりしていました。

 午後6時41分ごろ救急車が到着。心電図で心停止と判断され、マスクとバッグによる心臓マッサージを開始。
午後7時8分に堺市立総合医療センターに搬送。気管挿管の際に、ごはん粒が残っていたことが記録されています。
 そして、午後8時26分、隣の和泉市の大阪母子医療センターに転送。
 しかし、心拍再開までに40分かかったため、脳にダメージを受け、8日後の11月12日午後4時14分、けんちゃんは帰らぬ人となりました。
 食事中の誤嚥で窒息し、低酸素性脳症になったことが死因でした。

●活発で優しい笑顔が印象的だったけんちゃん

 つぶらな瞳のけんちゃん。2015年2月生まれ。ダウン症で、心臓の合併症(心房中隔欠損)がありましたが、その年の7月に受けた手術が成功し、美砂子さんは「お医者さんに、術後は絶好調で発達も順調だと言われ喜んでいたんです」という。夫(42)も「押し車を押して歩いたり、伝え歩きをしたりしていました」と振り返ります。
 7つ年上のお兄ちゃんにとてもかわいがられ、“たかいたかい”してもらうと声を上げて笑って喜んでいたけんちゃん。お菓子をもらうとお辞儀して受け取り、うれしそうに食べる仕草。けんちゃーんと呼ぶと「はーい」と答える笑顔が、夫婦のまぶたに焼き付いています。

●AEDの設置義務もない施設

 1歳を過ぎたころから、けんちゃんは近くの「日中一時支援」施設に預かってもらいました。週に2回ほど、美砂子さんの仕事があるときの利用でした。
 「日中一時支援」という制度は、家族が仕事に就けるように、あるいは介護している家族の一時的な休息をとれるように、障がい児者を日中預かる制度です。障害者総合支援法の地域生活支援事業に定められた事業で、事業内容は市町村が決めることができます。
堺市の場合は、「短期入所(ショートステイ)」の事業所が「日中一時支援」を行うことができることになっています。
 「短期入所」施設では、保育士などの専門職を置く規定はなく、人員の数やスペースの基準さえ満たせば、だれでも事業を始めることができます。AEDなどの設置義務はなく、救命措置の研修も義務付けられていません。

●どのようにして事故が起きたのか明らかにしたい

 事故の後、美砂子さんはショックで食事ものどを通らなくなりました。「けんちゃんのこれからに希望を抱いていたし、将来の可能性はいっぱいあったのに」。
 専門医は、けんちゃんがダウン症であったこと、かぜぎみであったことは、この事故にほとんど影響を与えていない、と保険会社に提出した意見書に記しています。
 食べさせ方に注意を払っていれば防げた事故ではなかったか?
 「ごはんの柔らかさも指定していたけれど、それも守られていたのかわからない」という美砂子さん。どのようにして事故が起きたのかを明らかにしようと、2017年4月に民事裁判をおこしました。


●全国の遺族とつながりたい

 けんちゃんの一周忌の2017年11月12日、美砂子さんは、「全国障がい児者施設の事故ゼロをめざす会」を立ち上げました。
 事故直後から、施設の現場に「危機管理」の観念がないことが気になったという美砂子さん。
 利用者の体調不良時やけがをした時にどう動くか、一人一人の体調などをどう共有するのか、障がいをどう理解するのか、などが徹底されていれば、今回の事故は起きなかったのではないかといいます。
 2018年2月には、厚生労働省で記者会見して、
 ▽危機管理マニュアル・ガイドラインの作成。
 ▽保育士や看護師の資格のある人の配置。
 ▽事故が起きた時の救命措置の研修の義務化。
 ▽療育施設との連携。
などを訴えました。

 会には、これまでに50人近い支援者が加わってくれました。
 「障がい児・者施設での事故が全国で相次いでいます。悲しい事故がこれ以上起きないように、ガイドライン制定などに向け一緒に声を上げていきたい」と美砂子さん。署名活動をしながら、「実際に事故にあった方のご家族や、ひやりとした体験をした家族のみなさんと情報交換し、つながりたい」と呼びかけています。
 
【全国障がい児者施設の事故ゼロをめざす会 ブログ】
  https://ameblo.jp/zikozeroomezasukai/

【同会 メール】
 shogaishisetuzikozeroomezasu@gmail.com